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「ストレッチで筋肥大・筋力アップ」について科学論文が示す真実
2017年4月3日2017年12月19日
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「ストレッチをトレーニングに応用する」の実際
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某プロテインの公式サイトのコラムに、ストレッチをトレーニングに組み込むことで筋力向上や筋肥大効果を高めることが期待できるという内容が掲載されています。その記事は参考文献も示しながら構成されていて、一見すると信憑性が高いように思われますが、はたして本当でしょうか?示されている参考文献の原文をチェックし、その真偽を確かめたいと思います。
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某サイトの記事冒頭の「ストレッチをトレーニングに応用するメリット」には、「トレーニングのレベルアップ、プラトー打破」とありますから、その記事はある程度トレーニング経験のある人に向けて書かれてあるものと解釈して、内容を検討していきます。
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ストレッチが筋肉を発達させる?
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その記事内では、「ストレッチの刺激によって、IGF-1(インスリン様成長因子-1)が分泌される→ストレッチが筋肉を発達させる」「パッシブストレッチを行うことで筋細胞が分化するときに発生する転写因子が多く発現する」というようなことが参考文献と共に紹介されていました。
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たしかに、原文をチェックしてみても転写因子が多く発現することは報告されていますが、その研究はラットを対象にした実験であり、本文内の結論部分においては「麻痺のある患者が筋のメンテナンスのために、パッシブストレッチを行うことは有益であることが示された」と述べられています。筋トレの効果を高めることに応用できそうだ、という方向性では論じられていません 1。
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さらに、この実験では、ラットは麻酔をかけられた状態でストレッチを実施されました。麻酔をかけたラットに施した伸張強度と同じレベルの刺激を、ヒトで再現することができるでしょうか?そして、この研究結果をそのまま健康なヒト(ましてやトレーニングを積んでいる人たち)に適用することができるでしょうか?外的妥当性という点で疑問です。
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外的妥当性:得られた研究結果を、異なる特徴を持った集団・状況・条件等に、どの程度一般化することができるかを示す概念。(例)男性被験者で得られた結果が、必ずしも女性被験者においても同様に得られるとは限らない。
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トレーナーが知っておきたい研究結果の外的妥当性
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他の研究ではどのように報告されているか?
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ヒトを対象にした研究で、定期的な静的ストレッチがIGF-1の分泌および筋力アップに対して与える影響を調べたものがあります 2。
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被験者はレクリエーションレベルのトレーニング習慣(トレーニング経験が少なくとも1年)がある30歳前後の男性(30名)で、以下の3つのグループに割り振られました。
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1. 筋トレ前のウォーミングアップとして静的ストレッチを実施
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2. 筋トレのセット間に静的ストレッチを実施
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3. 一切のストレッチを行わず、筋トレのみを実施
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セッションは週3回行い、これを10週間継続したときのIGF-1レベルと筋力を評価しました。
静的ストレッチは筋トレを行う部位を各30秒×1セット行いました。
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その結果、「筋トレ前に静的ストレッチ群」と「セット間に静的ストレッチ群」と比較して「筋トレのみ群」の方が有意にIGF-1レベルが上昇していました。
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▲ IGF-1レベルは「筋トレ前に静的ストレッチ群」「セット間に静的ストレッチ群」<「筋トレのみ群」
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また、筋力に関しては、「筋トレのみ群」では8RMテストを行った4種目すべて(ベンチプレス・プルダウン・レッグカール・レッグエクステンション)で重量が有意に向上しましたが、「筋トレ前に静的ストレッチ群」はプルダウンとレッグエクステンション、「セット間に静的ストレッチ群」はプルダウンでのみ有意な向上が見られました。
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以上のことから、ヒトを対象としたこの研究を参考にすれば、トレーニング習慣のある人が筋力アップ・筋肥大を目的とするのであれば、トレーニング前やセット間に静的ストレッチは行わず、筋トレのみに専念することが望ましいということになります。
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【論文紹介】筋トレ前のストレッチは筋肥大・筋力・柔軟性の獲得にどのような影響を与えるか?
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● ラットとヒトの研究では結果が異なっている
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● ヒトを対象にした研究では静的ストレッチをせずに筋トレだけを行う方が効果が高いとする報告もある
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ストレッチで筋力が29%アップ?
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話を戻して、さきほどの某サイトの記事では、ヒトを対象にした研究についても触れられており、静的ストレッチを週3回×10週間行った結果、筋力が29%上昇したということも参考文献と共に紹介されています 3。トレーニングをしている人なら容易にわかると思いますが、週3回のストレッチを10週間継続することで挙上重量が2-30%もアップするでしょうか?
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この部分も参考文献が示されていますから、あからさまに嘘が書いてあるわけではありません。これも、問題は外的妥当性があるかどうかです。示されている論文は、30秒×4セットのふくらはぎのストレッチを週3回行って、10週間後には足関節底屈筋力が29%上昇していたというものですが、対象者がトレーニング習慣の無い人でした。
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トレーニング習慣のある人が、その記事を読んで抱いたはずであろう「継続的に静的ストレッチをするだけで30%も筋力がアップするわけがない」という感覚と「静的ストレッチを継続的に行うことで筋力アップすることが証明されている」という研究との間にギャップが存在したのは、対象者が定義されていないまま記事が書かれていたことが原因だったというわけです。
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「一般的なトレーニングに加えてストレッチを行うことで、通常のトレーニングを超える効果が得られるかもしれない」と述べられていますが、これはそれぞれの研究のリミテーションを無視した飛躍した主張です。冒頭で述べたとおり、この某サイトの記事はトレーニング習慣のある人を想定して書かれてありますから、トレーニング習慣の無い人を対象にした論文を引用するのは適切とは言えません。
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トレーニング習慣が無い場合は“追加的な”効果が期待できる可能性も
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トレーニング習慣が無い人は、ストレッチを行うだけでも筋力が向上するということは上述しましたが、筋トレに静的ストレッチを加えることで“追加的な”筋力向上効果を得られる可能性があることも報告されています。
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Kokkonen et al.(2010)は、トレーニング習慣の無い人を対象にした8週間の介入研究を実施し、筋トレを行わない休息日に静的ストレッチ(各部位15秒×3セット、合計30分間)を行ったグループは、筋トレのみを行ったグループと比較して、より大きな筋力の向上が得られたと報告しています 5。
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